折りたたみiPhoneは、Appleの『終わりの始まり』なのか

技術の後発と、製品カテゴリーの後追いは違う


Appleが折りたたみiPhoneを出すらしいという報道が盛んだ。

その話を聞いたとき、最初に思ったのは「欲しい」でも「面白そう」でもなかった。

「Appleがそれをやったら、終わりの始まりなんじゃないか」

別に折りたたみスマートフォンが嫌いなわけではない。 SamsungのGalaxy Z Foldをはじめ、折りたたみ端末が登場したときには面白い技術だと思ったし、閉じればスマートフォン、開けばタブレットという発想も理解はできる。

Appleが作れば、きっと完成度も高いだろう。 折り目を目立たなくして、ヒンジを薄くし、ハードウェアとOSをきれいに統合してくるかもしれない。実物を触ったら「さすがApple」と思う可能性だってある。

それでも、どうにも引っかかる。 自分は長いことAppleの製品を使ってきた。その間、Appleが新しい製品を出すときには、良くも悪くも「Appleはこう考えたんだな」と感じさせるものがあった。

他社よりスペックが低いこともあった。搭載されていない機能もたくさんあった。Apple独自の判断に「なんでそうするんだ」と思ったことも一度や二度ではない。

それでも、他社がすでに作った製品を見て、「じゃあAppleも、それを作ります」 という会社ではなかったと思う。 今回感じている違和感は、そこにある。

Appleは昔から「後発」だった、というけれど

こういう話をすると、「Appleだって昔から後発だった」という話になる。

これはその通りだ。

iPod以前にもMP3プレーヤーはあったし、iPhone以前にもスマートフォンはあった。 iPad以前にもタブレットPCはあったし、Apple Watch以前にもスマートウォッチは存在した。 AirPods以前にもBluetoothイヤホンはあった。

Appleは、新しい技術を世界で最初に製品化する会社ではない。 むしろ他社が先に取り組んでいる技術をしばらく使わず、成熟してから採用することの方が多い。

だから「Samsungより7年も遅れて折りたたみスマートフォンを出すなんて、Appleも落ちたものだ」という話をしたいわけではない。

技術の後追いと、製品カテゴリーそのものの後追いは違うと思っている。

iPhoneは「Apple版BlackBerry」ではなかった

2007年にiPhoneが登場したとき、スマートフォンはすでに存在していた。 BlackBerryもあったし、Windows Mobileもあった。

それでも初代iPhoneを見て、「Appleもスマートフォン市場に参入したんだな」というだけの印象を持った人は少なかったと思う。

物理キーボードをなくして、画面そのものを指で操作する。 電話、iPod、Webブラウザをひとつの端末にまとめる。

Appleがやったのは、既存のスマートフォンを上手に作り直すことではなかった。 「そもそもスマートフォンって、こういうものなんじゃないの?」 と、それまでとは違う答えを突然出してきた。

iPadもそうだった。 Tablet PCはずっと前から存在していた。それでもiPadは「Apple製Tablet PC」には見えなかった。

AirPodsだって、Bluetoothという技術そのものには何の新しさもない。

それでも、ケースを開ける、つながる、耳につける、使う、ケースへ戻す、という一連の体験を作り直した結果、その後の完全ワイヤレスイヤホンの基準になった。

Appleは昔から後発だった。 でも、他社が作ったものをApple品質で作り直すだけの会社ではなかった。

少なくとも、自分はそう見てきた。

だから「Apple版Galaxy Fold」だったら、かなりダサい

ここで折りたたみiPhoneの話に戻る。

現在報じられているのは、閉じれば普通のスマートフォンとして使え、横に開けば大きなディスプレイになるブック型の端末だ。

Samsungが初代Galaxy Foldを発売したのは2019年。 それからHuawei、Google、Xiaomiなども参入し、折りたたみスマートフォンという製品カテゴリーはすでに出来上がっている。

そして今、Appleもそこへ参入しようとしていると報じられている。

もちろんAppleなら、もっと薄くできるかもしれない。 折り目をほとんど見えなくできるかもしれない。 ヒンジも美しく作るだろう。 開いた瞬間にiPad的なUIへ切り替わるような、ソフトウェアまで含めた完成度の高さも期待できる。

でも、それだけだったらどうだろう。 極端に言えば、「Galaxy Z FoldをAppleがものすごく丁寧に作りました」という話に見えてしまう。

それはAppleがやることなのだろうか? ここが、自分にはどうにも格好悪く見える。

完成度の高い後追いをする会社になったら

誤解のないように言えば、そういうAppleがビジネスとして弱くなるとは思っていない。

むしろ逆かもしれない。 SamsungやHuaweiなどが新しい製品カテゴリーを開拓する。 何年かかけて市場が形成される。

ディスプレイやヒンジなどの技術が成熟する。 ユーザーが何を求めているのかも分かってくる。

そこでAppleが参入して、問題点を全部潰した完成度の高い製品を作る。 そしてAppleのエコシステムとブランドを使って、プレミアム価格で販売する。

経営戦略として考えれば、かなり合理的だ。

でも、自分がAppleに面白さを感じてきたのは、そこではない。

Appleには「答え」ではなく「問い」を作ってほしい

Appleの製品を長く見ていて面白かったのは、新製品が出るたびに他社がその後を追う場面を何度も見てきたことだ。

iPhoneが登場したあと、スマートフォンはほぼ全面ディスプレイになった。 iPadが登場したあと、各社がタブレットを作った。 MacBook Airが封筒から取り出されたあと、PCメーカーは一斉に薄型ノートPCを作った。 AirPodsが街中に増えれば、完全ワイヤレスイヤホンが当たり前になった。

もちろんAppleだけの功績ではない。

それでもAppleは、 「次のコンピュータは、こういうものなんじゃないか?」 という問いを市場に投げる会社だったと思う。

そしてSamsungやGoogleやMicrosoftをはじめとする他社が、それぞれの方法でその問いに答えていく。 その構図が面白かった。

ところが折りたたみiPhoneでは、立場が逆になる。 「スマートフォンを折りたためば、スマートフォンとタブレットを一台にできるのではないか?」という問いを作ったのはAppleではない。

SamsungやHuaweiなどが何年も前から取り組み、失敗もしながら製品を作り続けてきた。 その問いに対して、7年後にAppleが完成度の高い答えを出す。 それはたぶん、良い製品だ。 でも、自分がAppleに期待していたものとは少し違う。

Appleには、他社が作った問いに最高の答えを出す会社ではなく、他社が答えざるを得なくなる問いを作る会社であってほしい。

本当に「終わりの始まり」なのか

折りたたみiPhoneを一台出したからといって、Appleが終わるわけではない。そんな単純な話ではない。

おそらく売れるだろうし、製品としての完成度も高いと思う。自分だって、実物を触ったら欲しくなるかもしれない。

それでも「終わりの始まり」という言葉が頭に浮かんだのは、Appleが失敗すると思ったからではない。

Appleが、普通の優秀なメーカーになっていくように見えたからだ。

他社が新しい市場を開拓し、Appleはそれを観察する。技術が成熟したところで参入し、最も完成度の高い製品を作る。それで大きな利益を上げる。非常に優秀な会社だ。

でも、それだけならAppleでなくてもいい。少なくとも、自分が長い間面白いと思ってきたAppleとは違う。 もちろん、まだ実物すら発表されていない。

Appleが折りたたむこと自体に、SamsungやHuaweiとはまったく違う意味を持たせてくる可能性もある。

「折り目がない」「世界で最も薄い」「史上最高性能」ではなく、「だから、折りたたむ必要があったのか」 と思わせてくれるものを出してくるのなら、ここまで書いたことは撤回したい。

むしろ、そうなってほしい。

Appleにはまだ、他社の答えを上手に作る会社ではなく、次の問いを作る会社であってほしいと思っている。

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